カンチャナブリ―へ 19
バイクに乗る前だったか、
おっちゃんが、確か
「ユー・アー・ラッキー」
と言ったように記憶している。
どういう意味だろう?
俺みたいな良心的なバイク運転手に出会えてラッキーだね、
という意味か、
あるいは、普通こんな風にバイクを捕まえることはできないんだよ、
という意味か。
ともかくもバイクは動きだした。
通りの道幅は広い。
けれどやはり対向車にも出会わず歩いている人も見かけない。
昼寝でもしているのだろうか。
とても静かでただバイクの音だけが響いている。
もし時間があれば歩いてみたいような異国の通りだ。
さすがにおっちゃんがスピードを加減してくれているのが分かる。
そりゃそうだ。
それでも自然とおっちゃんの腰に回した腕やまたがった太ももには
力が入る。
角を曲がったりするのに減速、加速をされるとお尻がシートの上を
滑りそうな気がして悲鳴を上げそうになる。。
フ、ファ、フウァーア~!・・・フゥー!
(最後のフゥーは安堵。)
からだに加速度がかかる度に息を詰め、股関節に力を入れ、
速度が緩やかになると息をつく。
しばらくして片側2車線の車がビュンビュン走っている広い通りにでる。
あ、これが国道かな。
ここまで出てこれればまた違った展開になったのかもしれない。
でもWiFiなかったんだもん。
交通量が増えるとやはり怖い。
傍らを走る車、車時々バイク。
そんなに寄らないで~、ヒエ~
さらに必死にしがみつく。
車の荷台にのったおばちゃんたちがこちらを見て笑っているような気がする。
被害妄想か。
しばらくして
国道から1本入って
あ、街中に入ったな、と思って何度か角を曲がるとロットゥーやバスが
ずらりと停まっている場所に辿り着く。
ここか。カンチャナブリ―のバスターミナル。
半ば放心状態でバイクを降りる。
股関節が緊張しすぎたせいで足ががくがくする。足どりも覚束ない。
「・・・コッフン・カップ!」
料金を払うがうっかりチップを渡すのを忘れてしまう。
(親切にしてくれたのに。おっちゃん、ゴメン!)
それというのも放心状態だったのとひとりの男がこちらの方にかけてきて
バイクのおっちゃんと話し始めたからだ。
かけてきた男(俳優の笹野高史に似ている。以下ササノ)がこちらに
話かけてくる。
きっと行先を尋ねているのだろうと思い、
「モーチット。サタニ―・コンソン・モーチット。」
舌になじんだ言葉を繰り返す。
頷いたササノは私を引っ張るようにして1台のロットゥーに案内すると後ろの座席に
押し込めた。
バイクのおっちゃんと出会ってから僅か20分程の出来事ではなかったか。
何か信じられないような気がするがなんとか
バンコクに戻るための席は確保できたようだ。
ただただ安堵。
でも、思う。
宅配便の荷物じゃん、これじゃ。